日本が観光立国する日｜デービット・アトキンソン「新・観光立国論」

デービット・アトキンソン「新・観光立国論」は、少子高齢化が進む日本の将来への提言の書物です。日本に長期滞在している外国人（イギリス人）の視点で語ら..

【情報公開日】2017/09/30　【関連タグ】書評資産運用全般

　
　デービット・アトキンソン「新・観光立国論」は、少子高齢化が進む日本の将来への提言の書物です。日本に長期滞在している外国人（イギリス人）の視点で語られていることもあり、とても新鮮でした。

デービッド・アトキンソン新・観光立国論: 価　格:税込1,650円
著　者:デービッド・アトキンソン
出版者:東洋経済新報社
出版日:2015年06月05日頃
備　考:外国人観光客８２００万人、ＧＤＰ成長率８％！日本の進むべき道がここにある！

　有望な少子化対策として、外国人観光客の誘致を挙げています。彼らは、短期滞在にもかかわらず、少なからぬ外貨を日本にもたらします。移民による少子化対策よりも、問題が少なそうですし実現可能性も高いように感じます。
　大事なのは「おもてなし」ではなく「マーケティング」ということが、この本を読み進めるうちに分かってきます。

「日本のように「すみません」と言われて初めて対応するのでは失格とされています」（P.118）

　レストランの接客について、ヨーロッパと日本の違いについて述べています。このことは確かに自分も頻繁に感じることです。なぜ、もっと客の動きに注意を払わないのだろう、と思うことがよくあります。

「日本のレストランのスタッフには、どの客が何を注文したのか覚えていない人が多いことです」（P.118）

　この点については、特に違和感を覚えません。日本人だからなんでしょうかね。ただ、外国人観光客をターゲットにするのであれば、改善した方が収益性が向上すると思われます。

第5章　観光立国のためのマーケティングとロジスティクス（P.133～）

　この本の核心が、この第5章です。我が国の対外的な観光マーケティングは、他の産業に比べると工夫も努力も圧倒的に不足している、と著者は言います。このことは本文中で数多く登場する客観的な統計データでも裏付けられます。
　また、それだからこそ、今後の大幅な伸びしろが期待できるともしています。

「国ごとにセグメンテーションをして、何を求めているかを理解したうえで「おもてなし」をする」（P.166）

　観光客誘致に積極的なフランスやイギリスなどでは、ターゲットを細分化した上で、セグメントごとのマニュアルを作成しています。
　自国のアピールポイントを丁寧に洗い出した上で、国ごとに当てはめていくことが必要とされます。手間がかかる地道な作業ですが、お金も努力も惜しんでいません。
　観光事業者は、このような具体的かつ実用的なマニュアルを参考に「おもてなし」をするので、外貨獲得という結果に結び付きやすくなるのでしょう。

「さまざまな趣味別の「観光コース」という商品を、どうやって、どの国のいくらくらい収入がある人にアピールするのかということを、明確にする作業です」（P.167）

　アピールポイントとターゲットを明確化し、そのために何をすればいいのかを具現化するのがマーケティングです。
　確固とした裏付けがないにもかかわらず、派手なマーケティングをすると逆効果です。このような「見掛け倒し」は、日本の有名観光地に結構多いような気がします。

「外国人観光客たちがやってきても最低限困らないだけのインフラ、つまりロジスティクスの部分をしっかりと整備することです」（P.170）
「日本は外国人観光客に優しくない先進国です」（P.170）

　マーケティングの次はインフラ整備です。著者は、インフラも圧倒的に不足していると、空の玄関口である成田空港など、具体的事例をあげながら指摘します。

「多くの先進国では電車のキップを買うときにもクレジットカードが使えますが、日本ではいまだに一部ではクレジットカード対応していません」（P.175）

　日本国民は、電子マネーが普及しているほか、現金（日本円）で簡単に購入できるので困りません。
　けれども外国人観光客は、日本国内向けの電子マネーを持っていませんし、現金（日本円）を使う場合は両替しなければいけません。外国人観光客の多くは、保有するクレジットカードやデビットカード等を使ってスマートに支払いをしたいのに出来ないのです。

　中国人観光客の爆買いが一服した感がありますが、2020年の東京オリンピックに向けて外国人観光客は今後ますます増えることが予想されます。ところが、受け入れる側（観光業者や自治体）の意識は相変わらず内向きで、この本が出版された2年前（2015年6月）とあまり変わっていないように感じます。
　観光にグローバルスタンダードを取り入れるメリットは大きいと思います。もちろん全てをグローバル化する必要はなく、守るべきところをしっかり守っていかなければ観光地としての魅力を損ねてしまいます。そこら辺の匙加減は難しいですが、周囲に合わせて少しずつ変化していかなれば、取り残されてしまう危険性もあります。

　観光に携わる人に限らず、多くの方に手に取ってもらいたい本です。