同族会社の節税:役員報酬と企業型401K (*2014年版)
役員報酬や事前確定届出給与、選択制確定拠出年金(企業型401K)を使った節税と社会保険の削減を具体的に解説。同族会社の資金繰り改善に。 (*2014年版)
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*この資産運用情報は2014年時点のものです。直近のものは「同族会社の節税:役員報酬と選択制確定拠出年金」をご確認ください。
個人事業と法人成り
継続的に事業収入が発生しだすと、必然的に税金や社会保険のことを意識するようになります。例えば、年間所得(=年間収入-年間経費)1,000万円であれば、所得税や住民税、事業税で200万円を、更に国民年金や健康保険の負担を合わせると300万円を超えます。税金や社会保険の負担率は30%以上となり、年間所得が上昇すれば負担率は更に上がります。
ところが、事業を個人名義から法人名義に変更することで、税金はもちろん、うまくやれば社会保険も大幅に削減することが可能です。ただし、個人事業に比べると*事務負担やコストが確実に増加するので、法人成りをするか否かは費用対効果で判断することになります。目安としては年間所得1,000万円ですが、500万円前後でも一定の効果が期待できます。
*事務負担やコストが確実に増加 … 所得税申告に比べると法人税申告は煩雑なため、事務負担もコストも増加する。法人は社会保険に強制加入なので社会保険の事務の負担が増加する(個人事業の場合、従業員5人未満は任意加入)。法人住民税の均等割が赤字でも発生する。
役員報酬を分散して節税(社会保険の極小化)
法人成りによる節税の基本的な考え方は「分散」です。法令上の優遇措置を活用するために、様々なものを小分けするのです。基本中の基本が「役員報酬の親族への分散」。所得税は累進税率ですし、最低65万円の給与所得控除や38万円の基礎控除もあるので、これを活用しない手はありません。配偶者や子供、親兄弟などの親族への役員報酬支給を検討します。
法人成りをして役員報酬を支払う場合、所得税や法人税だけでなく、社会保険についても考慮しなければなりません。社会保険料は労使折半なので、法人も同額負担することになります。役員報酬を増やせば、税金の総額を減らせますが、社会保険はそれ以上に増える可能性があります。社会保険の支払増加により将来的な年金受給額が増えるというメリットはありますが、直近の資金繰りは確実に悪化します。
社会保険を考慮に入れた上で、役員報酬の分散を検討していきます。
年間収入が130万円以内かつ非常勤であれば、厚生年金(社会保険)の扶養を外れる必要がありません。親族への役員報酬が年130万円以内であれば、社会保険負担の極小化がはかれます。
なお、2016年10月の法改正(「短時間労働者に対する厚生年金・健康保険の適用拡大」)により、年間収入の要件が130万円から106万円に変更されますが、従業員501人以上の大会社が対象です。規模の小さい同族会社には(現時点では)関係しないので、親族への役員報酬については「年間収入130万円」が一つの目安になります。
役員報酬のケーススタディ
例えば、次のようなケースを考えてみます。- 所得が50万円/月。
- 親族A、親族Bと同居。
- パターン1(個人事業主の所得が50万円/月)
- パターン2(法人の所得が50万円/月、社長の役員報酬が0円/月)
- パターン3(法人の所得が0円/月、社長の役員報酬が50万円/月)
- パターン4(法人の所得が0円/月、社長の役員報酬が40万円/月、親族Aの役員報酬が10万円/月)
- パターン5(法人の所得が0円/月、社長の役員報酬が30万円/月、親族Aと親族Bの役員報酬が各10万円/月)
税金及び社会保険の年間負担額シミュレーション(※所得50万円/月)
パターン1 | 税金 | 社会保険 | 計 | 備考 |
---|---|---|---|---|
個人事業:所得50万円/月 | 1,216,784円 | *732,474円 | 1,949,258円 | *国民年金等 |
合計1 | 1,216,784円 | 732,474円 | 1,949,258円 | |
パターン2 | 税金 | 社会保険 | 計 | 備考 |
法人:所得50万円/月 | 1,465,900円 | 0円 | 1,465,900円 | |
社長:役員報酬0円/月 | 0円 | *228,284円 | 300,184円 | *国民年金等 |
合計2 | 1,465,900円 | 228,284円 | 1,766,084円 | |
パターン3 | 税金 | 社会保険 | 計 | 備考 |
法人:所得0円/月 | 71,900円 | *812,700円 | 884,600円 | *厚生年金等 |
社長:役員報酬50万円/月 | 564,901円 | *812,700円 | 1,377,601円 | *厚生年金等 |
合計3 | 636,801円 | 1,625,400円 | 2,262,201円 | |
パターン4 | 税金 | 社会保険 | 計 | 備考 |
法人:所得0円/月 | 71,900円 | *650,160円 | 722,060円 | *厚生年金等 |
社長:役員報酬40万円/月 | 403,734円 | *650,160円 | 1,053,894円 | *厚生年金等 |
親族A:役員報酬10万円/月 | 40,380円 | 0円 | 40,380円 | |
合計4 | 516,014円 | 1,300,320円 | 1,816,334円 | |
パターン5 | 税金 | 社会保険 | 計 | 備考 |
法人:所得0円/月 | 71,900円 | *487,620円 | 559,520円 | *厚生年金等 |
社長:役員報酬30万円/月 | 264,902円 | *487,620円 | 752,522円 | *厚生年金等 |
親族A:役員報酬10万円/月 | 40,380円 | 0円 | 40,380円 | |
親族B:役員報酬10万円/月 | 40,380円 | 0円 | 40,380円 | |
合計5 | 417,562円 | 975,240円 | 1,392,802円 |
- 法人の場合、社会保険の会社負担分については、法人税額計算において考慮していません。
- 扶養・控除なしで試算しているので、実際の税額は更に減るものと思われます。
- 法令に基づいて試算していますが、正確性・完全性について、いかなる保証をするものでもありません。参考資料としてご利用ください。
資金繰りに最も有利な役員報酬のパターン
シミュレーション結果より、資金繰りに最も有利なのは「パターン5(法人の所得が0円/月、社長の役員報酬が30万円/月、親族Aと親族Bの役員報酬が各10万円/月)」ということが判明しました。最も不利な「パターン3(法人の所得が0円/月、社長の役員報酬が50万円/月)」と比べると、資金繰りが年間86.9万円(=226.2万円-139.3万円)ほど楽になります。個人事業の「パターン1(個人事業主の所得が50万円/月)」と比べても、資金繰りが年間55.6万円(=194.9万円-139.3万円)ほど楽になります。なお、「パターン3」の場合、個人事業に比べると税金は減りますが、社会保険の負担は激増します。社会保険の会社負担分は大きいので、法人成りや役員報酬額の設定については慎重に行なうべきです。
ともあれ、社長の役員報酬を抑えつつ、親族に役員報酬を計画的に分散すれば、税金と社会保険の総負担額を最適化できることが分かりました。
事前確定届出給与(役員賞与)の活用
法人税法上、原則的に役員報酬は定額であり、改定は年一回しかできません。そのため、役員報酬の設定は非常に重要となります。ところが「事前確定届出給与」を活用すれば、賞与的な使い方ができる上に、要件を満たせば全額損金として計上することができます。税務署に対して「支給日」と「支給額」を事前に届け出て、かつ、その内容通りに正確に支給する必要はありますが、きわめて使い勝手のよい制度です。
原則的に役員賞与は法人税において損金処理されません。必要経費にならないのです。よって、法人の利益調整手段として役員賞与の利用は馴染みません。ところが、この事前確定届出給与を活用すれば、多少の手間はかかりますが、役員賞与を活用した法人の利益調整が可能になります。しかもノーリスクで。
注意するのは、法人の利益が思ったより出なかったときです。この場合、一部だけ支給しても損金処理できないので、支給すべきではありません。あくまでも事前に届けた「支給額」を正確に支給する必要があります。「支給額」を支給できない場合は、「支給日」以前に取締役会を開催し、支給しないこと、及び、当該役員が辞退したことの2点を決議しておくことが無難です。
選択制確定拠出年金(企業型401K)の活用
更に、選択制確定拠出年金(企業型401K)を活用することにより、税金と社会保険の削減が可能となります。主な特徴は以下の通りです。
- 従業員全員が加入する必要はない。希望者のみ加入。
- 従業員ごとに掛金月額を設定。掛金月額の上限は5.5万円。
- 掛金は給与所得とならない。
- 給与所得が掛金分だけ減るので、労使双方で社会保険の負担減。
- 給与所得が掛金分だけ減るので、従業員の所得税の負担減。
- 給与所得が掛金分だけ減るので、会社の源泉所得税の負担減。
- 従業員が掛金の運用先を指定。
なお、企業型401Kの税制メリット(※運用益が非課税、受取時の税制優遇等)については、確定拠出年金(401K)で合法的に節税をご確認ください。
選択制確定拠出年金の掛金月額のケーススタディ
例えば、役員報酬が月50万円のケースを考えてみます。掛金月額について、次の4つのパターンでシミュレーションしてみます。- パターン1(掛金月額0円。何もしないパターン)
- パターン2(掛金月額1万円)
- パターン3(掛金月額3万円)
- パターン4(掛金月額5.5万円。最大掛金)
税金及び社会保険の年間負担額シミュレーション(※役員報酬50万円/月)
パターン1 | 税金 | 社会保険 | 計 |
---|---|---|---|
掛金月額0円 | 564,901円 | 812,700円 | 1,377,601円 |
法人負担分 | - | 812,700円 | 812,700円 |
合計1 | 564,901円 | 1,625,400円 | 2,190,301円 |
パターン2 | 税金 | 社会保険 | 計 |
掛金月額1万円 | 548,784円 | 796,446円 | 1,345,230円 |
法人負担分 | - | 796,446円 | 796,446円 |
合計2 | 548,784円 | 1,592,892円 | 2,141,676円 |
パターン3 | 税金 | 社会保険 | 計 |
掛金月額3万円 | 516,551円 | 763,938円 | 1,280,489円 |
法人負担分 | - | 763,938円 | 763,938円 |
合計3 | 516,551円 | 1,527,876円 | 2,044,427円 |
パターン4 | 税金 | 社会保険 | 計 |
掛金月額5.5万円 | 476,258円 | 723,303円 | 1,199,561円 |
法人負担分 | - | 723,303円 | 723,303円 |
合計4 | 476,258円 | 1,446,606円 | 1,922,864円 |
- 法人の場合、社会保険の会社負担分については、法人税額計算において考慮していません。
- 扶養・控除なしで試算しているので、実際の税額は更に減るものと思われます。
- 法令に基づいて試算していますが、正確性・完全性について、いかなる保証をするものでもありません。参考資料としてご利用ください。
資金繰りに最も有利な掛金月額のパターン
シミュレーション結果より、資金繰りに最も有利なのは「パターン4(掛金月額5.5万円。最大掛金)」ということが判明しました。最も不利な「パターン1(掛金月額0円。何もしないパターン)」と比べると、資金繰りが年間26.7万円(=219.0万円-192.3万円)ほど改善されます。従業員の年金受給額が減るというデメリットはありますが、今後も社会保険の負担が増えることが予想されるので、導入を検討する価値はあると思います。
選択制確定拠出年金(企業型401K)の導入
ただし、導入にあたっては相応のコストがかかります。調べたところ「企業型401K(SBI証券ダイレクト401Kプラン)」が、中小企業向けでは最もコストパフォーマンスが良さそうです。
- 人数規模に関係なく1人から導入可能(役員1人でもOK)。
- 初期費用:税抜103,000円(1人の場合)~
- 運用手数料:税抜5,300円/月(1人の場合)~
- 収納代行手数料:税抜300円/月
- 導入まで3ヶ月必要。
選択制確定拠出年金(企業型401K)については、大企業だけでなく同族会社といった零細の中小企業でもメリットのある制度だと思われます。
選択制確定拠出年金(企業型401K)の運用商品
企業型401Kの導入前に、運用方法についても検討しておく必要があります。魅力的な運用商品がなければ、企業型401Kの税制メリット(確定拠出年金(401K)で合法的に節税)を最大限生かすことはできません。上述の「企業型401K(SBI証券ダイレクト401Kプラン)」であれば、ノーリスクの定期預金に加え、以下のようなインデックス投信が運用商品としてラインナップされています。もちろん購入手数料は全て無料です。
- 国内株式
- DC日本株式インデックス・オープンS:信託報酬 0.2000%
- 先進国株式
- DIAM外国株式インデックス〈DC年金〉:信託報酬 0.2500%
- 新興国株式
- 年金積立インデックスファンド 海外新興国(エマージング)株式:信託報酬 0.5500%
- 国内債券
- DC日本債券インデックス・オープンS:信託報酬 0.1600%
- 先進国債券
- 野村外国債券インデックスファンドDC:信託報酬 0.2100%
- 新興国債券
- インデックスファンド 海外新興国(エマージング)債券:信託報酬 0.5200%
- 国内REIT
- SMT J-REITインデックス・オープン:信託報酬 0.4000%
- 先進国REIT
- SMT グローバルREITインデックス・オープン:信託報酬 0.5500%
- バランス型
- SBI資産設計オープン〈スゴ6〉:信託報酬 0.6800%
- DCインデックスバランス80:信託報酬 0.2000%
- DCインデックスバランス60:信託報酬 0.1900%
- DCインデックスバランス40:信託報酬 0.1800%
- DCインデックスバランス20:信託報酬 0.1700%
信託報酬が低く設定されているのが目を惹きます。一般向け(ノーロードのインデックスファンド比較)と比べると明らかですが、確定拠出年金(401K)向けは信託報酬が安いです。
また、「企業型401K(SBI証券ダイレクト401Kプラン)」は、様々な種類のインデックス投信を取扱っています。取扱っていないのは「新興国REIT」ぐらいでしょうか。
リスクを取るのであれば上記のインデックス投信から、リスクを取りたくないのであれば定期預金(1年・3年・5年)から選べばいいと思います。
SBI証券ダイレクト401Kプラン
「企業型401K(SBI証券ダイレクト401Kプラン)」のメリットは以下の通りです。- 人数規模に関係なく1人から導入可能(*役員1人でもOK)。
- 圧倒的な低コスト:1年目17万円~(*2年目以降は年6.7万円~)。
- 年26.7万円の資金繰り改善効果(*役員報酬月額50万円&掛金月額5.5万円のケース)。
- 低コストかつ豊富な運用商品。
役員報酬を利用した具体的な節税方法まとめ
個人事業主が法人成りをして、節税のために役員報酬を支給するというケースが日常的に行なわれています。ですが、社会保険の負担増が節税効果を打ち消し、逆に資金繰りが悪化することもあり得ます。節税と社会保険の削減はセットで考えるべきです。なお、親族への役員報酬支給については、勤務実態等が問われることがあります。役員報酬に見合った貢献を会社にしているのであれば、その旨を具体的に文書化するなど、対応しておくことをお勧めします。
注意事項
*この資産運用情報は2014年時点のものです。直近のものは「同族会社の節税:役員報酬と選択制確定拠出年金」をご確認ください。
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事前確定届出給与について - 税制 - Yahoo!ニュース news.yahoo.co.jp
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