資産管理会社とは
資産(有価証券や不動産)管理会社の節税メリットやデメリット(費用負担)、個人事業主と法人の比較、相続税対策、設立コスト、ふさわしい会社形態などについて。
【最終更新】(※情報登録:2010/08/25)
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資産管理会社の特徴
有価証券(株式等の金融資産)や不動産などの資産管理を目的とする会社のことです。一般的に、運用資産が一定程度を超えた場合、個人ではなく会社として管理する方が有利になります。資産管理会社(*有価証券の管理)
個人の場合、有価証券からは配当所得や譲渡所得が生じますが、収入から差し引くことができる必要経費はほとんどありません。ところが、個人から資産管理会社へ有価証券を移動することで、必要経費として計上できるものが増えます。一例を挙げます。
- 株主総会や投資セミナー等への旅費交通費(旅費規程等があれば日当等)を必要経費にできる。
- 役員(自分や家族)の報酬や退職金を必要経費にできる。
- 役員(自分や家族)の生命保険を必要経費にできる。
- 経営セーフティ共済の掛金を必要経費にできる。
以下、資産管理会社が有価証券を管理する手順例です。
- 資産管理会社を設立し、有価証券を現物出資する。
- 資産管理会社は、有価証券からの収益(主に配当)を原資に、役員報酬等の必要経費を支払う。
有価証券を個人から法人へ贈与することも可能ですが、非営利型で非営利性が徹底された一般社団法人等を除き、税務的には不利な扱いを受けるのでお勧めしません。
資産管理会社(*不動産の管理)
個人の場合、不動産からは不動産所得や譲渡所得が生じますが、資産管理会社に不動産を移動することで様々なメリットが生じます。例えば、個人の場合、不動産所得が赤字のとき、以下の損失については他の所得と損益通算ができません。
- 生活に必要不可欠でない資産(別荘等)の賃貸に関するもの。
- 土地取得分の借入金利息。
No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算|国税庁
経営セーフティ共済の掛金については、個人事業の場合、不動産所得での経費計上が認められませんが、資産管理会社であれば全額必要経費となります。
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)掛金について|中小企業基盤整備機構
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以下、資産管理会社が不動産を管理する手順例です。
- 資産管理会社を設立する。
- 資産管理会社は、個人所有の不動産を時価評価(建物は簿価)で購入する。
- 資産管理会社は、個人に購入代金を支払う(多くの場合、分割して返済)。
- 資産管理会社は、不動産からの収益(主に賃貸収入)を原資に、上記3.の返済を実施したり、役員報酬等の必要経費を支払ったりする。
不動産を現物出資することも可能ですが、原則的に不動産鑑定士の鑑定評価が必要ですので相応の費用がかかります。
不動産を個人から法人に贈与することも可能ですが、非営利型で非営利性が徹底された一般社団法人等を除き、税務的には不利なの扱いを受けるのでお勧めしません。
なお、上記手順では不動産の名義変更が必要なので、登録免許税等の費用がかかります。名義変更が不要な方法としては、
- 資産管理会社が不動産を管理する(管理費収入)。
- 資産管理会社が不動産を一括借上げして転貸する(賃貸収入)。
前者は非常に楽ですが、管理費は賃料の5~10%が相場なので、資産管理会社の収入は限定的となり、結果的に節税効果も少なくなります。
後者は賃料の80%前後で一括借上げるので、資産管理会社にとっては、収入が賃料の20%前後に増える反面、事務手続きや空室リスクも増えるというデメリットもあります。
資産管理会社の利点
- 本人への報酬や退職金が会社の必要経費になる
- 役員報酬や役員退職金を受け取ると、所得税では給与所得控除や退職所得控除が適用され、税負担が軽減される。
- 同一生計親族へ報酬や退職金を出しやすくなる
- 所得を親族に分散化することで、税負担の軽減が期待できる。
- 不動産や有価証券などの売却損が他の収入と通算される
- 不動産や有価証券、FXなどの売却損については、個人では他の収入や所得と通算することができない。
- 必要経費と認められるものが増える
- 会合での食事代(会議費)、パソコンやプリンター等(消耗品費)、役員の社宅家賃の一部(支払家賃)、役員の生命保険料、出張時の日当(要.旅費規程)など。
- 相続税対策として有効
- 詳細については後述。
- 保有資産の明確化
- 本人(あるいは同一生計親族)の保有資産を明確にし、資産残高を把握することが可能。相続対策を検討する際にも有効。
資産管理会社の欠点
- 法人の設立維持費用がかかる
- 比較的コストの安い合同会社や一般社団法人でも、設立時だけでなく毎年一定の費用(地方税の均等割等)が必要となる。
- 社会保険料の事業主負担がかかる
- 役員報酬を支払う場合、原則的に法人は社会保険料を半額負担しなければならない。
- 経理事務の負担が増える
- 毎年法人税の申告をする必要があるので、日常的な記帳や決算期の決算書作成などの経理事務が必要となる。
個人事業主と法人の比較一覧
個人事業主と法人について比較してみました。法人の場合、同一生計親族(本人を含む)は役員として取り扱います。より詳しくは法人の節税や同族会社の節税:役員報酬と選択制確定拠出年金等をご確認ください。項目 | 個人事業主 | 法人 |
最高税率 | 55.945% (所得4,000万円超。所得税45.945%+住民税10%) | 27.2136% (注1) |
損益通算 | 所得区分によっては可能 (不動産・事業・譲渡・山林) | 可能 |
繰越控除 | 最大3年間 | 最大10年間 |
旅費交通費 | 実費のみ経費計上 | 日当等も損金算入可能 (旅費規程等が必要) |
自分の給料 | 認められない | 役員報酬として損金算入 |
同一生計親族 への給料 | 専従者給与として経費計上 (専従の実態が必要) | 役員報酬として損金算入 |
自分の退職金 | 認められない | 役員退職金として損金算入 (退職金規程があった方がよい) |
同一生計親族 への退職金 | 認められない | 役員退職金として損金算入 (退職金規程があった方がよい) |
自分の生命保険 | 生命保険料控除額が上限 | 支払保険料として全額損金算入 (原則的に掛捨て部分のみ) |
同一生計親族 への生命保険 | 生命保険料控除額が上限 | 支払保険料として全額損金算入 (原則的に掛捨て部分のみ) |
福利厚生費 | 従業員分のみ経費計上(除.家族) | 役員を含めて全額損金算入 (福利厚生規程等が必要) |
地代家賃 | 同一生計親族間で経費計上不可 | 法人個人間で損金算入 |
交際費 | 全額経費計上 | 年800万円まで全額損金算入 (中小法人等に限る) |
経営セーフティ共済 | 事業所得のみ掛金を経費計上(不動産所得等は不可) | 掛金を全額損金算入 |
少人数私募債 | 発行不可 | 1億円まで発行可能 |
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会社の種類
資産管理会社に関係深い項目(剰余金や最少人数、設立コストなど)について、会社の種類別に列挙してみました。種類 | 責任 | 剰余金 | 法人格 | 最少人数 | 設立コスト | 設立事務量 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
株式会社 | 有限 | 分配可能 | あり | 1人 | 24万円~* | 少なめ | *電子定款は印紙代不要 |
合同会社 | 10万円~* | 少ない | |||||
合資会社 | 有限 無限 | 2人 | |||||
合名会社 | 無限 | 1人 | |||||
特定目的会社 | 有限 | 2人 | 8万円~ | 多い | 不動産関連 | ||
有限責任事業組合 | 構成員課税 | なし | 6万円~ | 少ない | 日本版LLP | ||
企業組合 | 制限あり | 4人 | 0円 | 非常に多い | 都道府県知事が認可 | ||
NPO法人 | 分配不可 | あり | 10人 | 行政庁が認可 | |||
一般社団法人 | 2人 | 11万円~ | 少ない | 非営利型法人が可能 公益認定制度あり | |||
一般財団法人 | 7人 | ||||||
個人事業 | 無限 | - | なし | 1人 | 0円 | なし |
資産管理会社にふさわしい会社の種類
- 人数は少ない方が良い
- 意思決定等に関与する人間は少ない方がいいので、最少人数が1~2人のものを選択。
- 有限責任の方が良い
- リスクを低減化させるために、有限責任のものを選択。
- 法人格がある方が良い。
- 役員報酬等を利用して節税したいので、法人格があるものを選択。
- 手間と費用は少ない方が良い
- 可能な限り設立コストと設立事務量が少ないのものを選択。
種類 | 最少人数 | 剰余金 | 設立コスト | 決算公告 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
株式会社 | 1人 | 分配可能 | 24万円~* | 必要 | *電子定款ならば20万円~ |
合同会社 | 10万円~* | 不要 | *電子定款ならば6万円~ | ||
一般社団法人 | 2人 | 分配不可 | 11万円~ | 必要 | 非営利型法人が可能 公益認定制度あり |
設立コストや剰余金の扱い、決算公告の有無などから、資産管理会社にふさわしい形態として合同会社が第一に挙げられます。
ただし、合同会社の場合、「相続による持分承継の定め」が定款に記載されていない限り、社員の持分が相続人に引き継がれません。また、定款に「相続による持分承継の定め」が記載されていたとしても、相続人が複数存在する場合、相続人全員が社員の地位を承継することになります。遺産分割協議等によって特定の相続人だけが社員の地位を相続することはできないので、相続人全員が一旦社員となった後に、各持分を譲渡するという面倒な手続きが必要となり、トラブルの元になりかねません。
ゆえに、相続時のトラブルを回避することを最優先するのであれば、合同会社ではなく、株式会社を選択するのも一つの方策です。
相続対策を考慮するのであれば、出資の概念がない一般社団法人も候補になります。ただし、同族役員数が総役員数の2分の1を超える場合、2018年税制改正大綱に盛り込まれた「特定の一般社団法人に対する相続税のみなし課税」に注意する必要があります。
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相続税対策
- 遺産分割についての考察
- 相続人が多い場合、遺産分割で争う事例が後をたちません。現預金や国債などの金融資産であれば分割しやすいのですが、不動産となると簡単にはいきません。
- 土地を分筆するには少なからぬ費用がかかりますし、共有持分とすると権利関係が複雑になるので将来売却する際に禍根を残すことになりかねません。
- 個人間で金融資産や不動産を相続するより、事前に資産を法人(資産管理会社)に移し、株式という形で相続する方が有利になるケースがあります。
- 資産管理会社を利用した相続税対策
- 「取引相場のない株式」を相続する場合、その他の資産に比べて評価が低くなる可能性があります。資産管理会社の株式は「取引相場のない株式」なので、純資産価額方式か類似業種比準方式、それらの併用方式で評価することになります。一般的に類似業種比準方式の方が評価が低くなる傾向があるので、諸条件に合致するならば相続税が軽減されます。
- 「取引相場のない株式」については、相続ではなく贈与する方法もあります。この場合、資産管理会社が保有する資産(上場株式や不動産)の価値が下がっていると思われるタイミング(例:金融危機)に、株式持分を贈与するのが有利です。もちろん一度に全ての株式持分を贈与する必要はなく、受贈者の担税能力に応じて贈与します。
- 資産管理会社が役員退職金や役員弔慰金を支給すると、資産管理会社の純資産が減少すると同時に、株式の評価額が減少するので相続税が軽減されます。役員退職金(役員慰労金)で節税・役員弔慰金で節税
- 「非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予」を受けられるかもしれません。ただし、要件は比較的厳しく、資産管理会社であれば事業実態が存在する必要があります(後継者とその後継者と生計を一にする親族以外の常勤従業員が5人以上など)。なお、資産管理会社が持株会社に該当するならば要件が緩和されるので、複数の法人を使って納税猶予の適用を目指すことも考えられます。
- 資産管理会社の株式の評価を含め、相続税対策については、税法や通達に精通している必要がある上、法改正が毎年のように行われるので、経験豊富な税金専門家の助言を受けることをお勧めします。
- 資産管理会社を利用した相続税の納税資金対策
- 役員退職金を活用することで、所得税や法人税を節税すると同時に、相続税の納税資金を準備することができます。役員退職金の原資としては、経営セーフティ共済や経営者保険(役員の生命保険)、小規模企業共済などを活用。役員退職金(役員慰労金)で節税
- 原則的に相続税の対象にならない役員弔慰金を活用することで、相続税や法人税を節税すると同時に、相続税の納税資金を準備することができます。役員弔慰金で節税
- 少人数私募債を役員退職金の原資として発行後、小分けに贈与することで、相続税の納税資金を効率的に準備することができます。少人数私募債で節税
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